WizBizでは2024年7月、元福岡ソフトバンクホークス監督の工藤公康さんをお招きし、「未来を作る思考と行動」をテーマに講演会を開催しました。2023年の初登壇の際に「もう一度聴きたい」という声を多くいただき、2度目の開催となったものです。本コラムでは、主催者として講演を聞いた私たちが特に心に残った話を取り上げ、そこから考えたことをまとめます。
日本一5回の監督が「失敗の一覧」を持ち歩いていた
監督として7年間で5度の日本一。現役時代も含めれば、勝ち続けることを宿命づけられた人生と言ってもいいでしょう。
そんな工藤さんが講演の終盤、スクリーンに映し出したものがあります。監督在任中に自分がしてしまった失敗や反省を書き留めた、手書きのリストです。「妥協した」「気を抜いた」「自分で考えずにコーチ任せにした」。そうした項目が並んでいるのを、ご本人は隠すことなく見せてくれました。
実績のある人ほど、自分の失敗は語りたがらないものです。それをわざわざ書き出し、人前で見せる。そこに、私たちの仕事にも通じる大きなヒントがあると思いました。
試合前に必ず読み返す、もう一つの準備
このリストの使い方が独特です。工藤さんは毎試合の前、監督室でこれを読み返し、「同じ失敗は二度としない」と自分に言い聞かせてから試合に向かっていたそうです。データ分析やシミュレーションを徹底したことで知られる監督ですが、自分自身の失敗もまた、試合前に確認する「準備」の一つだったわけです。
もう一つ印象的なのが、身近なスタッフに「ダメなものはダメと、遠慮なく言ってほしい」と頼んでいたことです。選手への言い方、ベンチでの態度。指摘は1年の半分くらいは続いたと言います。それでも聞き続け、書き留め続けるうちに、指摘の数も、リストに加わる項目も少しずつ減っていきました。
自分の失敗を自分で拾うリストと、他人の目で拾ってもらう仕組み。工藤さんはこの二つを組み合わせていました。
優勝より嬉しかった、選手の一言
工藤さんは、監督1年目と2年目は感情をそのまま表に出していたと率直に振り返っています。勝てば明るく、負ければ沈む。ベンチで苛立ちを見せることもありました。3年目から少しずつ自分を変えようと取り組み、5年目を終えて6年目に入ったころ、選手からこう言われたそうです。
「監督も変わりましたね」
工藤さんはこの一言を、7年間で一番嬉しかったこととして挙げています。日本一になったことよりも、です。
注目したいのは、ここに至るまでの時間です。変わろうと決めてから、周りに気づいてもらえるまでに3年ほどかかっています。人の印象は、本人の決意ひとつで翌日から変わるものではありません。それでも、記録して、読み返して、指摘を受け止める。その地道な繰り返しが、最後には周りの目を変えたのです。
反省は「気持ち」ではなく「仕組み」にする
私たちも仕事で失敗をすれば、反省はします。ところが厄介なのは、反省の気持ちは時間とともに薄れていくことです。1週間もすれば、何を反省したのかさえ曖昧になります。そして同じ場面が来たとき、また同じことをしてしまう。これは意志が弱いからではなく、人間の記憶がそういう仕組みになっているからです。
工藤さんのやり方が教えてくれるのは、反省を気持ちに頼らず、仕組みに変えることの大切さです。具体的には、次の三つに分けて考えるとわかりやすいでしょう。
- 書き留める:失敗をした日のうちに、一行でいいので書く。「商談で相手の話をさえぎった」「確認を省いて手戻りが出た」程度で十分です。
- 読み返すタイミングを決める:書いただけでは意味がありません。工藤さんにとっての「試合前」にあたる場面、たとえば大事な商談の前、会議の前、週の始まりなどに読み返す習慣をつけます。
- 言ってくれる人をつくる:自分の癖は自分では見えません。「気になったら遠慮なく言ってほしい」と、信頼できる同僚や部下に先に頼んでおくことです。
特に三つ目は、立場が上がるほど難しくなります。役職がつけば、周りは指摘を遠慮するようになるからです。だからこそ、自分から頼んでおく必要があります。7年で5度の日本一を果たした監督でさえそうしていたのですから、私たちが遠慮する理由はありません。
そしてもう一つ。変わる努力は、すぐには評価されません。工藤さんでも周りが気づくまでに3年かかりました。成果が見えない時期にこそ、続ける価値があるのだと思います。
朝礼スピーチ例文(そのまま読めます)
ホークスで5度の日本一を果たした工藤公康さんは、監督時代、自分の失敗を書き出したリストを持っていたそうです。
そして毎試合の前に、それを読み返してからベンチに向かっていました。身近なスタッフには、ダメなところは遠慮なく指摘してほしいと頼んでいたそうです。
そうして3年ほど続けたころ、選手から「監督も変わりましたね」と言われ、優勝より嬉しかったと語っています。
反省の気持ちは、時間がたてば薄れます。だからこそ、書き留めて、読み返す。そして指摘してくれる人を自分からつくる。今日、もし何か失敗をしたら、一行でいいのでメモしてみてください。それが明日の自分を助けてくれるはずです。
