会議で話す内容が飛んでしまう。名刺を交換したばかりの相手の名前が出てこない。誰しも経験があるだろう。こうした「順番どおりに思い出す」という場面には、二千年以上前から使われている技法がある。
覚えたいものを、道順に置いていく
「場所法」と呼ばれる記憶術がある。古代ギリシャ・ローマの弁論家が長い演説を暗記するために用いた技法で、驚くべきことに、現在も記憶力の競技会に出場する選手たちが同じ方法を使っている。日本では脳研究者の久保田競氏(京都大学名誉教授)らが紹介している。
やり方は単純である。まず、自分がよく知っている道順を思い浮かべる。自宅から駅までの道でもいい。通勤で乗る電車の駅の並びでもいい。そのうえで、覚えたいものを各ポイントに順番に置いていく。
たとえば結婚式のスピーチで、話す順序を覚えておきたいとする。渋谷のハチ公に結婚指輪をはめる。原宿の竹下通りに三つの袋を置く。代々木の競技場に古時計を置く。あとは頭のなかでその道をたどれば、話の順番がそのまま出てくる。
置き場所は駅でなくともよい。額、目、鼻と、自分の体の部位を順に使う方法もある。要は、順序が固定されていて、自分がよく知っている場所であればいい。
なぜ道順に置くと思い出せるのか
この技法が効くのには理由がある。人間は、言葉の並びを覚えるのは不得手だが、場所を覚えるのは得意だからだ。
何年も通っていない実家の周辺を思い浮かべれば、角の店や坂の傾きまで浮かんでくる。一方、昨日読んだ資料の項目を三つ挙げよといわれると、途端に怪しくなる。同じ記憶でありながら、定着の仕方がまるで違う。
場所法は、この差を利用する。苦手な形式の情報を、得意な形式に載せ替えてしまうのである。覚える努力を増やすのではなく、覚え方の入り口を変える。
記憶力を鍛えるというと、反復や暗唱といった根性論に傾きがちだ。だが二千年使われてきた技法が教えているのは、むしろ逆である。うまく思い出せないのは能力の問題ではなく、扱い方の問題かもしれない。
ほかにも、その日に会った人の名前を帰宅後に書き出す、おとといの夕食を思い出して昨夜のものと比べる、といった簡単な訓練がある。いずれも道具はいらず、今日から始められる。
苦手を克服するより、得意なものに載せる。これは記憶にかぎった話ではないだろう。
朝礼スピーチ例文(そのまま読めます)
記憶術の話です。
「場所法」という方法があります。古代ギリシャから使われていて、いまも記憶力の競技会に出る人たちが使っている技術です。
やり方はこうです。まず、自分がよく知っている道順を思い浮かべる。家から駅までの道でも、通勤で乗る電車の駅の順番でもいい。そこに、覚えたいものを一つずつ置いていきます。
たとえばスピーチで話す順番を覚えたいとき。最初の話を渋谷駅に置く。次の話を原宿駅に置く。三つ目を代々木に置く。あとは頭の中でその道をたどれば、順番どおりに思い出せます。
なぜこれが効くのか。人間は、言葉の並びを覚えるのは苦手ですが、場所を覚えるのは得意だからです。よく知っている道は、何年経っても忘れません。その得意なほうに、苦手なほうを乗せてしまうわけです。
これは今日から試せます。会議で言いたいことが三つあるなら、それを通勤路の三か所に置いてみてください。メモを見ずに話せるはずです。
苦手なことを克服するより、得意なことに乗せる。仕事のやり方としても、応用が効く考え方だと思います。
