私たちは公私ともに、ときとして落ち込んだり、つらい状況に直面することがある。そのときに何が必要なのであろうか。少しでも状況を好転しようという意志か。じっと耐える力か。もちろんそれらも必要であろうが、意外なことに笑いやユーモアが悩みに対して効用があるといわれている。
支持率をアップさせたレーガンのユーモア
アメリカのレーガン元大統領は、大統領に就任して2カ月後の1981年3月30日、ワシントンD.C.のヒルトン・ホテルを退出しようとしたさいに、狙撃された。報道官が頭部に重傷を負うなど大きな事件となり、レーガン自身も撃たれ病院に運ばれた。そのときレーガンは、手術室の医師たちにこういったそうだ。
「君たちが全員、共和党の支持者だといいんだが」。
いうまでもなくレーガンは共和党出身。反対政党の医者ばかりだったら命が危ない、というユーモアである。じつはレーガン、この事件以前は知識層などから否定的にいわれていたが、狙撃という事態においても余裕を失わない精神的な強靭さや人格が評価され支持率が大きく上がった。彼のその後の政策が実施できたのは、この事件(=このユーモア)があったからだともいわれている。
また、以前に紹介したアメリカのジャーナリスト、ノーマン・カズンズは、自らの闘病経験を1976年に医学誌「New England Journal of Medicine」に発表している。難病の強直性脊椎炎に倒れ、治る確率は500分の1と告げられたカズンズは、喜劇映画やユーモア全集を用いて、毎日10分間大笑いすることを日課とした。すると激しい痛みが和らぎ、2時間ぐっすり眠れるようになったという。
落語を聞いたリウマチ患者に起きたこと
日本でも同様の研究が行われている。1995年3月、日本医科大学リウマチ科の吉野槙一教授は、病院内に寄席の舞台を設け、落語家の林家木久蔵(現・林家木久扇)氏を招いて、慢性関節リウマチ患者を対象とする実験を行った。対象は手足の関節が変形し、重症度が中程度から高度と認定された女性患者26人。比較のため、健康な女性31人の対照群も設けられた。
両群に1時間の落語を聞いてもらい、前後で血液を採取したところ、患者26人のうち22人に、炎症の程度を示す物質インターロイキン6の顕著な減少が認められた。正常値の10倍あった数値が正常域まで下がった例もあったという。痛みについては全員が軽減し、3週間鎮痛剤が不要になった人もいた。この結果は米国のリウマチ専門誌に掲載されている。
こうした研究は、笑いが心身に何らかの影響を与えていることを示している。効果の範囲や仕組みについてはなお研究の途上だが、少なくとも張りつめた気持ちがほぐれることは、多くの人が経験的に知っているところだろう。
もしいま悩んでいることがあれば、テレビでも本でも舞台でもいい。何か笑えるものを見つけたり、笑わせてくれる友人に会うことだ。また何か悩んでいる人がいたら、ひとつでも気のきいたジョークでもいってあげてほしい。レーガンにしても、彼自身のジョークで周囲の家族や側近たちはどれほどほっとしたことだろうか。
笑いやユーモアは、悩みや苦しみを少し軽くしてくれる。ちょっと落ち込んだときこそ、意識して笑える時間をつくりたい。
【参考】
Cousins N. “Anatomy of an Illness (as Perceived by the Patient).”
New England Journal of Medicine, 1976.
吉野槙一ほか「関節リウマチ患者における笑いの神経内分泌・免疫系への影響」
Journal of Rheumatology 23巻4号, 1996年
朝礼スピーチ例文(そのまま読めます)
1981年、アメリカのレーガン大統領が、就任2か月で銃撃されました。
病院に運ばれたレーガンは、手術に入る前、医師たちに向かってこう言ったそうです。「君たちが全員、共和党の支持者だといいんだが」。
レーガンは共和党の大統領です。もし反対政党の医者だったら困る、という冗談です。撃たれた直後に、これを言った。
この一言で、周りの空気が変わりました。手術室にいた人も、報道でこれを知った国民も、家族も。少なくとも、この人はまだ大丈夫だ、と分かったわけです。
レーガンはそれまで、知識層からの評価が高い政治家ではありませんでした。ところがこの事件のあと、支持率が大きく上がります。危機のときに余裕を失わなかったことが、人物の評価そのものを変えました。
私が思うのは、冗談を言える人は強い、という話ではありません。自分の余裕は、まわりの人の余裕になる、ということだと思います。
トラブルが起きたとき、上に立つ人が慌てると、全員が慌てます。逆もまた同じです。
今日、何かうまくいかないことがあったら、そのときの自分の顔を、まわりが見ているということだけ思い出してみてください。
