WizBizでは2025年4月、元サッカー日本代表監督で、現在はFC今治の会長を務める岡田武史さんをお招きし、オンラインで講演会を開催しました。経営者として、また学校の学園長として、人と組織をどう育てるかを語っていただいた約1時間です。本コラムでは、主催者として講演を聞いた私たちが特に心に残った話を取り上げ、そこから考えたことをまとめます。
ハーフタイムに黙った日本代表、激論したブラジルの若者
岡田さんは講演の冒頭、対照的な二つの場面を紹介しました。一つは、日本代表が国内で行った親善試合です。前半だけで4点を奪われ、ハーフタイムにロッカーへ引き上げる選手たちは、誰も意見を言わず、議論も起きなかったといいます。
もう一つは、同じ年に行われたU-17ワールドカップの準決勝です。地元ブラジルが優勝候補のフランスに前半で2点をリードされました。ハーフタイムのテレビ映像に映ったのは、控えもレギュラーもグラウンドに集まり、身ぶり手ぶりで激論する17歳以下の選手たちでした。そこに監督やコーチの姿はなく、後半、ブラジルは逆転勝ちを収めます。
言われたことはきちんとこなすが、自分では判断できない。日本の選手が長年指摘されてきた弱点を、岡田さんはこの二つの場面に重ねていました。
答えを言わずに投げかける「3つの質問」
では、どうすれば自分で考える人が育つのか。岡田さんが学園長を務めるFC今治高等学校で、教員(同校では「コーチ」と呼ぶそうです)にお願いしているのが「3つの質問」です。
生徒に何か起きたら、まず「どうしたの?」と聞く。事情を聞いても、コーチは自分の考えを言わない。次に「君はどうしたいの?」と聞く。答えが出てこなければ選択肢をいくつか示すものの、やはり自分の考えは押しつけない。最後に「コーチに何か手伝えることはある?」と聞く。
これを繰り返すうちに、それまで「なんでやってくれないの」と他人事のように話していた生徒が、「こうしたほうがいい」と自分ごととして話すように変わっていくそうです。岡田さんは、会社でもまったく同じだと付け加えていました。
任された1期生がつくったオープンスクール
同校のルールは三つだけです。命に関わること、法律に反すること、人の成長を妨げること。それ以外は生徒が自分たちで決めます。開校直後の4月は問題だらけで、口を出すべきか迷いながらも我慢していたところ、生徒たちは1か月半ほどで自分たちなりの落としどころを見つけてきたといいます。
7月には、1期生から「中学生向けのオープンスクールを自分たちに企画・運営させてほしい」と申し出がありました。任せてみると当日まで何の報告もなく、心配した岡田さんが連絡すると、余計な口出しはしないでほしいと返されたそうです。ところが当日は、250人の会場で学校の理念を説明し、午後には保護者や中学生と1期生が個別に話せる場まで用意した、見事な内容でした。翌年の入学試験の倍率はおよそ2倍になったそうです。
岡田さんは、主体性と自主性は違うと強調していました。自主性は、周りが望むことやルールで決まっていることを自らやること。主体性は、自分で目的を見つけて自分で動くこと。そして主体性は放っておけば育つものではなく、寄り添いながら本人に見つけさせるものだといいます。
部下に答えを言いたくなったら、一呼吸おく
職場に置き換えると、耳の痛い話です。部下が相談に来たとき、私たちはつい答えを言ってしまいます。そのほうが早く確実で、相手からも感謝されるからです。
しかし、答えをもらった部下にとって、その仕事は「言われた通りにやる仕事」になります。うまくいかなければ「言われた通りにやったのに」となり、次に同じ場面が来ればまた相談に来る。上司が答えを出すほど、部下は考えなくなる。気づかないうちに、そんな悪循環にはまっているのかもしれません。
3つの質問の良いところは、特別なスキルがなくても今日から使える点です。
- どうしたの?:まず事情を聞く。ここで評価や助言は挟まない。
- 君はどうしたい?:相手の考えを引き出す。出てこなければ選択肢を示し、選ぶのは本人に任せる。
- 何か手伝えることはある?:責任を引き取らず、支える側に回る。
もちろん、待つのは時間がかかります。答えを言えば5分で済む話が、30分かかることもあるでしょう。それでも、人は自分で決めたことには本気になります。任された1期生がオープンスクールを見事にやり遂げたように。
AIが答えを出してくれる時代だからこそ、自分で考えて決める力の価値は上がっていくはずです。部下の「どうしたらいいですか」に、まず「君はどうしたい?」と返してみる。その一呼吸が、人を育てる第一歩になるのだと思います。
朝礼スピーチ例文(そのまま読めます)
元サッカー日本代表監督の岡田武史さんは、学園長を務める高校で、先生たちに「3つの質問」をお願いしているそうです。
生徒に何かあったら、まず「どうしたの?」と聞く。
次に「君はどうしたい?」と聞く。
最後に「何か手伝えることはある?」と聞く。
その間、先生は自分の考えを言わないのがルールです。これを続けると、生徒は人任せにせず、自分ごととして考えるようになるといいます。
職場でも、相談されるとつい答えを言いたくなります。でも、答えをもらった仕事は、どこか他人事になりがちです。今日、誰かに相談されたら、まず「あなたはどうしたい?」と聞いてみてください。
